10.ホールド性の良し悪し

インパクトでグッと乗るラケットはプレイヤーに安心感をもたらす。ホールド性が高いことは誰にも喜ばれそうだが、プレーにマイナスの影響が出ることも・・・・・。

これまでのラケットドック・ラボでは、ラケットのパワーとプレーとの関係について重点的に報告してきました。
特に、プレイヤーのスイングパワーに比べてパワーのあり過ぎるラケットを使うことによる悪影響については、いろいろな面から繰り返し取り上げてきました。参照⇒飛ばないラケットでスイングパワーを開放
今回はラケットを評価する上でパワーと並んで大切な要素であるホールド性とプレーとの関係について見てみたいと思います。

ホールド性って何?

ホールド性というのは、インパクト時のボールの“球持ち感覚”のことです。
ボールがストリング面に当たってから弾かれて出ていくまでの時間が長いラケットを「ホールド性が高い」と表現します。
ラケットの性能を評価する上では比較的重要度の高い要素だといえます。

これとは逆に、インパクト時の反応時間が短くシャープに弾くラケットのことは「ホールド性が低い」、あるいは「球離れが速い」といっています。

非常に短い一瞬のことで、機械計測すれば大差ないくらいの微妙な違いしかないのですが、人間の手はその感触の違いを明確に判別します。

身体の反応がホールド性に影響する!

厳密な検証をしていないので単なる推測の域を出ないのですが、人間の手はインパクトでの衝撃の伝わり方に応じて反応の仕方を変えているようです。
そして、その接触時間の長さの違いが増大するように機能しているのではないかと思われます。

つまり、鋭い衝撃に対しては手首を固めてブロックするような状態になり、その結果として、ボールを素早く弾き返すことにつながり、反対にマイルドなインパクトに対しては柔らかく受け取るような動きをして、結果的に接触時間を長引かせることになっているのではないでしょうか。
言い換えれば、球離れの速いラケットはより速く離れるように、ホールド性の良いラケットはより長く乗るように、手の機能がアシストしているように見えます。

ホールドするラケットは打ちやすい!?

「ホールド性が高い」という表現は、ラケットの誉め言葉として使われている面があります。
多くのテニスプレーヤーの受けとめ方として、「ホールド性の高さ=コントロールのしやすさ」という見方が一般化しているのではないでしょうか。
ストリングに当たってから、アッという間に離れていってしまうようなラケットより、ググッと面にくっついているラケットのほうが、思ったところに打球をコントロールしやすいようなイメージが一般に定着しているといえます。

極端にいえば、ボールを一度つかんでから打ち出すような機能を持つラケットが仮にできれば、ショットのコントロールがもっとやさしくなるというような感じです。
また、球離れが速くてシャープに弾くラケットは打感も硬く感じられるために、インパクトでの衝撃の伝わり方がマイルドなほうが体に優しい感じがするという面からも、ホールド性の良いラケットのほうが好まれる傾向があります。

ホールド性の高いラケットの効能

ホールド性の高いラケットが実際にプレーを改善するという例があります。
ホールド性が低く球離れが速いラケットでは、インパクトの瞬間だけヘッドスピードがあればボールを飛ばすことができるので、リストワークでコンパクトにパチンとヒットするようなスイングでも打てます。
ヘッドスピードが一瞬だけ速くなるような打ち方、悪く言えばいわゆる「手打ち」のような状態でも打てるわけです。

そういうスイング傾向のプレイヤーにホールド性の高いラケットを持たせると、ボールを前に送り出すような動きが出てきて、インパクト近辺だけでなくその前後でもヘッドスピードが上がって、縮んでいたスイングの幅が大きくなっていきます。
ストロークだけでなくボレーでもパンチ系のインパクトから、一旦ストリング面でボールを受けてから送り出すような打ち方に変わっていく場合があります。

ホールド性が高いことのマイナス

このような点から見ると「ホールド性が高い」ということは良いことだらけで、誰からも喜ばれそうな性能のようですが、ラケットドックの現場ではそうとばかりは言えない事象が見受けられます。
プレイヤーによっては、ホールド性が高いことがプレーにマイナスの影響を与えることがあるということが分かってきています。

動きが鈍くなる

具体的には、ホールド性が高いと動きが鈍くなるというパターンです。
インパクトでボールが乗っている間、人間の体の動きはそれを押し返そうする反応が出てきます。ググッと乗っている間はググッと押し返さないとボールが飛んでいかないので、ボールを前に突き放そうという動きが強くなります。

それが顕著な場合は、スイング中の押し返す動きの要素が大きくなって、ラケットヘッドが走らなくなりスピード感が失われます。その結果、ヘッドスピードが上がらずに、スイング後の次への移行も軽快でなくなり、全体の印象がもっさりとした感じになってきます。

打感が重い!?

ラケットドックでホールド性の良いラケットの試打後の印象を聞くと「重い」という声が返ってくることがよくがあります。
これは男性より女性の場合のほうが多いようですが、ラケット自体の重量もスイングウェイトも別段重くはないのにそう感じるのは、押し返さなければならない負担感が重量の負担感と感覚的に近いのでしょう。
プレイヤーのスイング感覚と合わない場合は、ホールド性の高いラケットが負担になる場合があるわけです。
人間の体は重さを負担に感じるとグッと踏ん張って耐えようとする傾向があるので、それが軽快感を失わせる原因にもなるのでしょう。

これとは逆に、反応がシャープで弾きの軽いラケットは、プレイヤーの動きそのものを軽快にするという機能を発揮する場合があります。
球離れが速いといつまでもボールを押していなくてもいいので、早く体が自由になって次の動きへと移行しやすいのです。

良し悪しは人それぞれで異なる

このように、ホールド性という一つの機能が個々のプレイヤーの状況によって毒にも薬にもなるわけです。「ホールド性の高いラケットはインパクトで前に押す動きを引き出しやすい」という特性が、良い結果をもたらす場合とそうでない場合があるということです。
それは、ラケットの性能変化という刺激に対して、個々のプレイヤーの身体がどう反応するかによって変わります。

ラケットのパワーと同様にホールド性についても、プレイヤー一人一人のスイング感覚に合ったレベルの性能が必要なのであって、やみくもに高ければ良いというものではないことが分かります。

ストリングも同じ

ここまではラケットの性能としてのホールド性の高さについてのレポートですが、実はストリングセッティングについても同じことがいえます。
最近シェアを拡大しているポリエステル系ストリングやポリをメインに使ったハイブリッドなどは「ホールド性の高いセッティング」だといえますが、ホールド性の高いラケットのメリット・デメリットと同じような影響をプレーに与えます。

やはり、万人向けのセッティングというのはないわけで、トレンドやブームに影響されることなく自分のプレーに合った冷静な選択が必要なのです。